実際の場面に即して
敬語表現は言葉ですから、状況や上下関係の変化に応じて、さまざまに変化します。
あのときは使えた言葉も、今回は使えない、そんなことも多々あると思います。
いくら敬語表現をたくさん覚えていても、その場その場にきちんと対応した言葉で話せなければ意味がありません。
敬語表現に対してとっつきにくいと感じる理由は、こんなところにもあるかもしれません。
しかし、電話応対に限らず、事務職にとって正しい敬語表現は避けて通れないものです。
苦手意識をなくして、少しずつ学んでいきましょう。

お紅茶はOK、おコーヒーはNG
まずは基本的なことですが、自分のことは男女問わず「私(わたくし)」と呼び、語尾には必ず「です」や「ます」、「ございます」をつけて話します。
名詞の語頭には「お」や「ご」をつけますが、動植物や外来語にはつかないので注意しましょう。相手の名前や取引先の社名には敬称をつけることも忘れずに。
社外が上、社内が下
ビジネス電話では、原則的に相手に対しては尊敬語を使い、自分のことは謙譲語で話します。
電話応対は、社外の人と会話することがほとんどです。
社外の人との通話には必ず敬語を用いましょう。
相手が自分の役職より下の役職だったり、自分より年下だからといって、敬語を使わなくてもよいということにはなりません。
社外と社内では、社外が上、社内が下の関係が大前提です。
通話相手が上、自分が下の関係です。
さて、これだけなら話は簡単なのですが、ビジネス上の会話には、社外の人間や社内の人間が関わってくるため、通話相手や話の内容によって上下関係が変化します。
臨機応変に尊敬語や謙譲語を使い分けていかなければなりません。
ほんの少しややこしくなりますが、難しいことではありません。
田中部長と部長の田中

さてここで、会話中に〈自分の上司〉が登場してきた場合を考えてみましょう。
社内での会話であれば、自分より上の立場である上司に対しては敬語表現を使うのがマナーですが、社外の人と会話する場合は、社内の上下関係よりも、〈社外が上、社内が下〉という上下関係を優先します。
上司に対しての尊敬表現は使わず、自分と同様に謙譲語を使います。
例) ×「田中部長がおっしゃっています」 → ○「(部長の)田中が申しております」
社外の人に対しては、社内の人は自分と同等に扱う、ということを覚えておきましょう。
また、「田中部長」のように名前と役職を組み合わせると尊敬表現になるため、役職名も省略します。
しかし、相手が社外の人であっても、その人が社内の人に近しい、という場合があります。たとえば、上司の家族や友人から電話がかかってきたような場合です。
そのような場合は、社内の人に対しても尊敬表現を使います。
例) 「(部長の)田中は席をはずしております」 → 「田中部長は出掛けていらっしゃいます」
また、過度にやわらかい表現にする必要はありませんが、場合によっては「田中部長さん」のように、さん付けにしても構わないとされています。
佐藤様から田中部長へ
電話の取次ぎなどで社内の人と会話する場合は、会話内容に出てくるすべての人に対して敬語表現を使います。
例) 「(○○社の)佐藤様から田中部長にお電話です。おつなぎしてもよろしいでしょうか?」
また、電話に家族などの身内の名前を出す場合、自分の身内に対して敬語表現は使いません。
これは社外、社内を問わず共通のマナーです。
例) ×「お母さんも一緒に行きます」 → ○「母も一緒に参ります」
間違った敬語表現
上手に使いこなせれば相手に好印象を与えることのできる敬語表現ですが、間違った言葉遣いは相手に悪い印象を残してしまいます。
尊敬語と謙譲語の混同や、敬語表現を重ねて使ってしまう二重敬語など、違和感を感じにくいものもあるので注意しましょう。
例)
- 尊敬語と謙譲語の混同…「参られる」「差し上げてください」など
- 二重敬語…「お越しになられる」「部長がお呼びになられています」など
Lesson 2-5 まとめ
- 相手に対しては尊敬語を使い、自分のことは謙譲語で話す。
- 社外と社内では、〈社外が上、社内が下〉が大前提。
- 社外の人間と会話する場合、社内の上下関係より、〈社外が上、社内が下〉を優先。
- 社外の人間であっても、その人が社内の人間に近しい場合は、社内の人間にも尊敬語を使う。
- 社内の人間との会話では、会話中のすべての人物に敬語表現を使う。
- 自分の身内に対して敬語表現は使わない。